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日の丸・君が代強制 広がる波紋(津京新聞)
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投稿者 天地 日時 2004 年 5 月 05 日 21:47:26:IVYNMLFehyE6c
 

日の丸・君が代強制 広がる波紋

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040505/mng_____tokuho__000.shtml

 東京都教育委員会による、卒業式で君が代斉唱の時に起立しなかった教職員の大量処分から約一カ月。今後、入学式での処分も見込まれ、「そこまでしなくても」と危ぐする声が広がる。五日は「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかる」祝日。子どもへの影響も避けられない、学校現場への国旗・国歌押しつけで広がる波紋とは。 (松井 学)

 四月半ば、都庁第二庁舎の二十七階エレベーターホールで、都立高の数学担当の男性教員が都教育庁職員と向き合った。教員は入学式で起立しなかった。

 「聴取が公正であるよう、弁護士の立ち会いを求める」と教員。

 「教育委員会の裁量で、立ち会いは認めていない」とはねつける職員。その場にいた学校長は、うつむいたままだ。教員に同行した弁護士が「懲戒処分を受ける可能性があるのだから、処分や手続きの公正さを確認する必要がある」と割って入る。押し問答は一時間続き、聴取に入ることなく終わった。

 都教委が都立高などの卒業式で戒告処分等としたのは、都立学校の教職員百七十六人と小中学校教員ら二十人。さらに、入学式で不起立だった四十人近い教職員の「事情聴取」が四月中に進められた。押し問答は、その時の一場面だ。

 教員に同行したのは、山中真人弁護士。投資信託をはじめ金融商品の法務の専門家だ。きっかけを「自分も都立高校を卒業した。そこで今、普通に考えておかしいことが起こっているから」と語る。

 もう一人、久保光太郎弁護士(27)も教育や人権問題とは無縁だった。日本企業と海外企業の間の契約書づくりを中心とする渉外企業法務に携わり、普段は都心のビジネス街で多忙な時間を過ごす。

 学校現場での「国旗・国歌の強制」のニュースも人づてに聞き、驚いた。

 「内心の自由は歴史的にもっとも尊重されるべきであると考えられてきた人権のはず。それが、特定の人に対する狙い撃ちではなく一般的に侵されつつあるのではないか」と、強く感じたからだ。

 今年一月、都立学校の教職員ら二百二十八人が、都や都教委を相手取り、日の丸・君が代の強制に従う義務のないことを確認する予防訴訟を起こした。山中さんや久保さんも加わる三十五人の弁護団には、企業法務や環境問題など、人権の問題以外を専門にする弁護士も自発的に集まった。原告団の教員も、組織などではなく、個々人の意思で参加しているのが特徴だ。

 いま久保さんは、戦時中にナチスに抵抗し、ダッハウ収容所から奇跡的に生還した牧師マルチン・ニーメラーの有名な言葉を思い返すという。

 『ナチスが共産主義者を攻撃したとき、自分は少し不安だったが、とにかく自分は共産主義者でなかった。だから何も行動しなかった。次にナチスは社会主義者を攻撃した。自分はさらに不安を感じたが、社会主義者ではなかったから何も行動に出なかった。

 ナチスは学校、新聞、ユダヤ人等をどんどん攻撃し、そのたびに不安は増したが、それでもなお行動に出ることはなかった。それからナチスは教会を攻撃した。自分は牧師だった。だからたって行動に出たが、そのときはすでに遅かった』

 「日の丸・君が代が嫌いではない」という久保さんだが、国家による強制には反対する。「今回の問題の本質は組合つぶしのように特定の思想を持った人々を権力が弾圧するという構図ではない。日の丸・君が代という多様な意見、感情を持つ問題について、権力でもってごく普通の人に特定の態度、行動をとることを強制している点にある」

 今回の大量処分問題は、欧米、アジアのメディアが東京発のニュースとして競って報じている。

 英紙の東京特派員は「日本の民主主義は形ばかりだといったよくある切り口の報道ではなく、各国の記者が本当に驚いて書いた」と声を上げる。そのうえで「自分の子どもを日本の公立小学校に入れるのを思いとどまろうかという記者もいる。伊紙の記者は『日本では先生が歌を歌わないと職を失う』という記事を書いて反響があった」と話す。

 国旗・国歌の強制で処分を受けるのは、どんな教員なのか。子ども一人ひとりを尊重し、育てようという教員も学校を追われかねない現状が広がる。

 都立大泉養護学校の教諭渡辺厚子さん(53)は、三月下旬の卒業式で君が代斉唱時に「不起立」を通した。渡辺さんは「学校で一番大切なのは、都教委の通達に従うことではなく、子どもの側に立つことだ。教員が唯々諾々と従えば子どもの権利を侵してしまう」と訴える。都教委は四月六日、「一カ月間、減給十分の一」という、今回、最も重い処分を出した。

 渡辺さんは一昨年の入学式では、靴に踏まれているハートなどを自分自身でデザインしたブラウスを着て不服従の意思を表した。これに対し都教委は戒告処分を出し、渡辺さんは都人事委員会に処分取り消しを求めている。

■父母側『処分望んでない』

 今年三月の人事委審理の際、「学校でなぜ日の丸を掲げるのか」との渡辺さん側の弁護士の問いに、処分を出した側の都教委の管理主事(当時)は「学習指導要領にある。なぜかは分からない。(私は)自宅では掲げない」と答え、傍聴者らの失笑を誘った。

 一方、渡辺さんが高等部三年間を担任した生徒の母親も証言に立ち、「日ごろ、先生の子どもたちへの接し方はとてもいい。ブラウスが式の雰囲気を壊したわけでもなく、私たち父母は処分を望んでいない」と訴えた。

 今回、処分を受けた教職員らの多くは都人事委員会に対し処分が不服だとして審査を請求、さらに処分撤回を求め「被処分者の会」を結成した。大量処分の波紋は広がり続けている。

 四月二十九日には、都立学校の生徒の父母らの呼びかけで、「学校に自由の風を」と題する集会が開かれた。父母、教員、生徒ら五百二十人が詰めかける中、予防訴訟の弁護団事務局長を務める加藤文也弁護士は「今回は悩みながらも起立した教職員らも含め、五月中に百人を超える人が第二次提訴する」と表明した。

 会場で、西原博史早稲田大教授(憲法学)はこう指摘した。「都教委は教職員らに対して『全体の奉仕者にふさわしくない行為で、教育公務員としての職の信用を傷つけた』という処分理由を示したが、自分自身で考えられる子どもを育てることこそが教育の公共性。いまや逆に子どもをロボットにする道具として日の丸・君が代が使われているんだ、という危機感を保護者らが共有する必要があるのではないか」

■「国旗国歌法」制定をめぐる国会答弁

 ・「政府としては、法制化に伴い、国民に対し国旗の掲揚、国歌の斉唱等に関し義務づけることは考えておらず、法制化により思想、良心の自由との関係で問題が生じることにはならない」(小渕恵三首相、1999年7月28日参院本会議)

 ・「児童生徒が例えば国歌を歌わないということのみを理由にいたしまして不利益な取り扱いをするなどと言うことは、一般的に申しますが、大変不適切なことと考えている」(有馬朗人文相、99年7月21日、衆院内閣・文教委員会)

 ・「政府の見解は、政府自身の見解でございまして、国民お一人、お一人が君が代の歌詞の意味などについて、どのようにお受け止めになるかについては最終的には個々人の内心に関わる事項である」(野中広務官房長官、99年8月6日、参院の特別委員会)

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